界面科学基礎研究ライブラリ:山下裕司 教授(神奈川大学)
化粧品から宇宙空間まで――「乳化」のふるまいを解き明かす基礎研究
山下 裕司 教授 神奈川大学 化学生命学部 生命機能学科
専門:コロイド界面化学、化粧品科学 / 協和界面科学 顧問
関連業界: 化粧品食品医薬品日用品
関連課題: 乳化・エマルション界面活性剤評価分散安定性表面張力
研究室紹介
写真提供:神奈川大学
| 所属 |
神奈川大学 化学生命学部 生命機能学科(2023年4月〜教授) |
|---|---|
| これまでのご経歴 | 千葉科学大学 薬学部 生命薬科学科 准教授 |
| 専門分野 | コロイド界面化学 / 化粧品科学 / 乳化技術 |
| 研究キーワード | エマルション、自己組織体、界面活性剤、化粧品製剤、経皮吸収、微小重力 |
| 主な受賞・実績 | ・SCCJ研究討論会 最優秀発表賞(2016) ・JSCM Most Accessed Review Award受賞(2021, 2025) ・Cosmetic science and technology: Theoretical principles and applications(監修,執筆)(Elsevier, 2017) |
| 協和界面科学との関係 | 当社の技術顧問として継続的にご指導をいただいています。表面張力計DY-300を導入、宇宙環境でのエマルション観察のための小型光学顕微鏡の共同開発実績も。 |
研究テーマ
山下先生の研究室では、化粧品をはじめとする乳化製品の品質向上を目指した基礎研究を進めています。中心となるのは「水と油が混ざりあう(または分離する)」というエマルションの挙動の解明。一見、化粧品の話に見えますが、その対象は宇宙空間にまで広がっています。
特に注目を集めているのが、欧州宇宙機関(ESA)が承認した国際共同プロジェクト「EDDIプロジェクト」。微小重力環境下で界面活性剤や泡、エマルションがどのようにふるまうかを解明することを目的とし、ヨーロッパ・アメリカ・日本の界面科学研究者チームが参画。山下先生は日本チームのプロジェクトリーダーを務めています。
山下先生:
水と油は重力のある地球では界面活性剤などがなければ乳化しませんが、無重力の宇宙空間だと乳化します。では、無重力空間ならいつまでも分離しないのかなど、エマルションの物性や挙動については謎も多いのです。その謎を解明したいというのが、この研究の目的です。
— 山下先生インタビューより(既存記事はこちら)
地球上でも卓上型装置を使って疑似的に微小重力環境を再現し、エマルションのメカニズム解明や、化粧品科学への応用に向けた知見の獲得を進めています。
界面科学的にここが面白い
① 「乳化のメカニズム」そのものに迫っている
多くの化粧品開発の現場では、乳化はあくまで「結果」として扱われます。一方で山下先生の研究は、そもそも乳化はどのような物理現象として起きているのかという、より根本的な問いに踏み込んでいます。微小重力という極限環境を使うことで、地球上では重力に隠れていた界面活性剤や油滴のふるまいが見えてくる——これは、現場でのトラブルシューティングにも応用しうる知見の源泉です。
② 表面張力測定だけでは見えない「動的なふるまい」
界面活性剤の評価では、静的な表面張力の値だけでなく、時間とともに表面張力がどう変化するか(動的表面張力)や、泡や液膜がどれだけ安定して存在できるかといった動的特性が重要になります。山下先生の研究は、こうした"動き"のあるエマルション挙動を観察する独自手法を開発しており、市販製品の品質評価の枠組みを広げる可能性があります。
③ 「特注品ではなく既製品では捉えられない事象」を測る難しさ
このプロジェクトでは、市販の光学顕微鏡では条件が合わず、当社が小型カメラを搭載した顕微鏡を共同開発しました。「測りたい現象」と「測れる装置」のギャップを埋めること——これは、当社が界面科学の専門家集団として最も力を発揮できる領域です。
この研究はこんな産業課題のヒントになります
山下先生の研究テーマは「宇宙」「化粧品」というキーワードが先行しがちですが、その背景にある「乳化・分散の安定性をいかに評価・予測するか」という問題意識は、多くの製造業の現場と地続きです。
化粧品メーカーの方へ:新規乳化剤の効能評価、クリームや乳液の長期保存安定性予測、肌上での製剤崩壊プロセスの理解など、製品設計の上流工程に応用しうる知見が含まれています。
食品・飲料メーカーの方へ:ドレッシング・マヨネーズ・ジュースなどの乳化飲料における、安定性評価や食感設計のヒントになります。特に「動的な界面挙動」の観点は、口腔内での崩壊プロセスを考える上でも参考になります。
製薬・医薬品メーカーの方へ:注射剤の脂肪乳剤、経口製剤のサスペンション、外用クリーム剤の処方設計など、生体応用での乳化技術に応用可能な基礎知見です。
塗料・インキメーカーの方へ:水性塗料の乳化安定性、顔料分散の評価、塗膜形成過程での界面活性剤のふるまいなど、ウェットコーティングプロセス全般に通じます。
関連情報
- 関連装置表面張力計 DY-300(山下先生の研究室で導入実績あり)
- 既存インタビュー記事人類が宇宙で生活する時代を見据えた基礎研究に貢献(2020年)
- 関連する界面科学理論表面張力とは



