環境変化でおこる”液体のわがまま”に科学で向き合う ー老舗モノづくり企業の研究開発室の取り組みー

靜甲株式会社 研究開発室 鉾之原 壮史 様(中央)・協和界面科学 インタビュー担当者
お客様情報 |
靜甲株式会社(https://www.seiko-co.com/) |
1939年の創業以来、静岡県静岡市を拠点に日本のモノづくりを支え続けてきた靜甲株式会社。食品や医薬品の生産ラインに欠かせない「充填機」の製造において、同社は長年、顧客ごとに異なる多種多様な液体と誠実に向き合い続けてきました。
充填機を使用するお客様が、現場で液だれなどの不具合に悩まされないよう、納品前の設計・調整段階でいかに液体の性質を見極め、最適化するか。これまで技術者の経験則や現地調整といった企業努力で支えてきたこの重要なプロセスに対し、現場とは別の軸から「数値データ」を用いて科学的に課題を解決しようと取り組む研究開発室。今回はその取り組みについて、清水工場の鉾之原(ほこのはら)氏にお話を伺いました。
「いつも通り」が通用しない。環境による“液体の物性変化”を想定する難しさ
――― 今回、研究開発室として「液体データベース構築」に取り組まれることになった、そもそものきっかけは何だったのでしょうか?
鉾之原氏: 私たちが製造する「充填機」において、最も避けなければならないトラブルの一つが「液だれ」です。お客様(納入先メーカー様)の工場で、ノズルから液がピタッと止まらずに垂れてしまうと、ライン汚染や不良品発生に直結します。
難しいのは、同じ液体であっても、「環境条件」によって液体の物性(粘度、表面張力など)が変わってしまう点です。 その代表例が「温度」です。冬場の寒い工場(10℃)と夏場の暑い工場(30℃)では、液体の物性が変化します。機械の設定も液体のレシピも変わっていないのに、「冬になったら急にキレが悪くなった」というようなトラブルが起きることがあるのです。
参考:充填機とは
https://www.seiko-co.com/hoso/filling/
――― 変化する条件を、設計段階ですべて想定するのは至難の業ですね。
鉾之原氏: ええ。これまでは、そうした変化に対してベテラン設計者が経験則で「こっちのノズルに変えれば解決できるだろう」と対策したり、現地調整でカバーしたりしてきました。
しかし、それではどうしても属人的になります。「環境変化によって液性がどう変わるか」を事前に想定し、誰でも客観的に判断できる指標を作るためには、感覚ではなく「数値」によるデータベースが必要だと考えました。 これが、私たちの「液体データベース構築プロジェクト」の生い立ちです。
過去データとの照合で「設計の当たり」をつける。数値化への第一歩
――― プロジェクトを軌道に乗せるにあたり、具体的にどのような活動からスタートされたのでしょうか?
鉾之原氏:まずは、環境変化による液体の挙動を正確に捉えるための「測定環境の整備」から着手しました。 測定機器に関しては、三島工場時代を含めて10年以上の運用実績があり、ここ清水工場でも長く使用していたため、協和界面科学さんの製品に対する信頼はすでにありました。
また、本格導入にあたり誰でも正確に再現性のあるデータを残すために必要十分な機能を検討する必要がありました。温度制御下での測定、自動計測機能などいくつかのモデルを実際に操作しながら比較できるというお話を聞き、新座(埼玉県)のショールームにサンプルを持ち込んで計測をしていただいたことがあります。その際、各モデルの特徴を目の前で操作していただき、弊社の運用イメージを相談したことで、最適なモデルを選定することができたと思います。
具体的な運用としては、まず新規の案件が来た際に、お客様から預かったサンプル液を測定します。そして、蓄積されたデータベースの中から近い数値を持つ過去の液体データを検索・照合します。 「今回の液体は、過去のあの実績機で扱った液体と物性が似ているな」 そうやって方向性を定めることで、ゼロから手探りするのではなく、ある程度「正解に近い設計」からスタートできるのです。
――― 具体的にどのような指標を制御の参考にされているのでしょうか?
鉾之原氏: 例えば、「液体のぬれ性(接触角)」と「ノズル表面処理」との相関です。充填機の配管には主にステンレスが使われますが、標準的な「2B材」でいいのか、「バフ研磨」や「電解研磨」といった加工が必要なのか。これを判断するために温度条件を変えながら接触角を測定し、計測結果をもとにノズル選定ができることを目指しています。
目標は1000件。膨大な手間をかけてでも、残すべき資産がある
――― 1つの液体に対して温度を変えながら測定するのは、大変な労力がかかりますよね。現在の進捗はいかがですか?
鉾之原氏: 現在、約1年かけて150件ほどのデータを蓄積しました。目標は過去の実績も含めて1000件以上です。 おっしゃる通り、1つの液体を温度を変えて何度も測るので、人件費も含めれば相当なコストと時間がかかっています。しかし、それだけの価値があるプロジェクトだと確信しています。
「経験」は人の頭の中にしか残りませんが、「データ」は会社の資産として残ります。1000件の「液体の物性」がデータとして可視化されれば、それはベテランの技術を若手に継承する最強の教科書になりますし、お客様への提案スピードや信頼性も格段に向上するはずです。 研究開発室は、現場の最前線で戦う設計者たちが、より動きやすく、確信を持って仕事ができるよう、データという武器で後押しする存在でありたいと思っています。
測定からデータ解釈まで伴走する、物性評価の心強いパートナー
――― プロジェクトを進める中で、協和界面科学のサポート体制についてはどう感じていますか?
鉾之原氏: 一度、データ管理のトラブルで100件以上のファイルが開けなくなった時にサポートしていただいて、大変救われました。 ですが、それ以上に重宝しているのが、測定からデータ解釈まで伴走してくれる「パートナー」としての存在です。
例えば、コンパウンド(研磨剤)入りのような特殊な液体の測定が必要になった時、「こういう液体はどう測ればいい?」「この数値の挙動はどう解釈すればいい?」といった相談ができる。単なる装置の操作説明だけでなく、界面科学のプロフェッショナルとして技術的な知見を共有してもらえるのは、研究開発担当者として非常に心強いですね。
数値を「事業」として活用する。「流体解析」が拓く可能性
――― 集めた数値を、今後どのように「靜甲のモノづくり」へ実装していこうと考えていますか?
鉾之原氏: 研究室内でディスカッションする際によく話すのですが、最終的には「集めた数字を事業として活用していく」ことになると考えています。 単にデータを集めて終わりではなく、その数値を工場の人たちが便利になる方法へと変換していきたいと思っています。
具体的には、蓄積した数値データを3D CADの流体解析(シミュレーション)と連携させることです。正確な物性値があれば、「作って試す」前に、デジタル上で「環境変化による液だれリスク」を予測できるようになります。そうすれば、経験の浅い若手技術者でも、ベテランと同じ品質で設計ができるようになります。
ただツールを使うだけでなく、こうした取り組みを通じて「数値を基に物理現象を理解・判断できる人材」が育っていく。そうやって数値が事業の中に浸透していくことで、靜甲の技術者一人ひとりの可能性が広がるような未来を作っていきたいですね。
【本記事で紹介した製品】
【使用装置】 接触角計 DMs-402
液体のぬれ性(接触角)や表面張力を1台で測定可能。オプションの温度制御ユニットにより、環境変化による物性の推移を評価できる。





