表面張力計の応用事例。液体の泡沫安定性評価
1. はじめに
「ぬれ」、「浸透」、「乳化」、「分散」、「泡立ち」はコロイド・界面化学における界面現象の一つである。 液体と固体の物性の一つである表面張力は、これらの界面現象の成り立ちにおいて重要な役割を果たしている。 我々の身の回りには、表面張力をコントロールすることで上記の界面現象を最適化し付加価値を向上させた製品、例えば洗剤、塗料、ワックス、食品添加物などの日用品が数多く存在し、これらを利用することで快適な生活を送ることができる。 今日、これら日用品を製造している多くのメーカーで研究開発、品質管理の一環で表面張力計が使用されている。
2. 表面張力計測定方法
表1に表面張力の主な測定方法を示す。

当社は1957年より表面張力計を発売し、1971年には世界で初めてWilhelmy法の表面張力計をリリースした。 Wilhelmy法の測定原理を図1に示す。まず測定子であるプレートが液体の表面に触れると液体がプレートにぬれ上がる。このときプレートの周囲に沿って液体の表面張力がはたらいてメニスカスが形成され、プレートを液中に引き込もうとする。この引き込む力を検出して表面張力を測定する。 一方du Noüy法は測定子としてプレートの替わりにリングを使用する(図2)。Wilhelmy法ではプレートを静止させて測定するのに対し、du Noüy法はリングを引張り上げることで張力の最大値を読み取って表面張力値を求める。 測定方法として歴史があるのはdu Noüy法でありJIS K2241でも採用されている。


Wilhelmy法の特長としては、測定子のプレートを液体に触れたまま測定するため、表面張力の経時変化測定が可能なことである。これに対しdu Noüy法はリングが液体表面に触れたあと一旦液から引き離されるため、経時変化測定が不可能となる。 これは時間とともに液体表面に吸着することで表面張力が変化する界面活性剤水溶液の測定には不向きであり、このことからも表面張力測定方法としてはWilhelmy法の方が一般的な測定方法となった。
3. 自動表面張力計 DY-300
自動表面張力計DY-300は当社の表面張力計ラインナップの中において最もスタンダードな表面張力計である(図3)。今回はDY-300で測定可能な、Wilhelmy法、du Noüy法の測定手法を応用した表面張力測定以外の測定について紹介する。

4.ラメラ長測定による泡沫安定性評価
泡は泡沫(Form)と気泡(Bubble)に大別されるがコロイド・界面化学における泡とは、泡沫のことを指す場合が多い。泡は製品の使用用途においては付加価値にも障害にもなり得る。そのため、泡の発生し易さ(起泡性)や泡の安定性(泡沫安定性)、消泡性は製品品質を規定する上で重要な評価項目となる。
一般的に起泡性は表面張力が低いほど高くなるが、泡沫安定性は表面張力が低いからと言って必ずしも高いとは限らない。泡沫安定性についてはDY-300においてラメラ長を測定することで簡単に評価することができる。

ラメラとは泡沫を構成する液体膜のことを言い、ラメラ長は液体膜がどれだけ伸びるかを測ることで泡の安定性の指標とするものである。
測定動作はdu Noüy法による表面張力測定とまったく同じであるが、測定自体は液体膜が最も伸びた時点から切れるまでの長さを測定する。
ここで界面活性剤水溶液の泡沫安定性におけるラメラ長測定の事例を紹介する。 図5は、ほぼ同等の表面張力値を有する界面活性剤水溶液中に空気を吹きこんで泡を発生させたときの様子を示したものである。

サンプルAは泡が次第に積層されていくが、サンプルBについては泡が出来てもすぐに破泡してしまう。この2つの界面活性剤水溶液についてラメラ長測定を行った。結果を図6に示す。

上記グラフからはサンプルAとBのラメラ長の差異は明確であり、Aの方がBよりも泡沫安定性が良好であることがわかる。
おわりに
今回は表面張力計の応用事例としてラメラ長測定による泡沫安定性評価について紹介した。これら評価方法は古くから紹介されているにも関わらず、露出度が少なく一般的とは言えない。
泡沫安定性については未だロスマイルス試験法が主流であるが、ラメラ長測定は特別な測定準備をすることなく界面活性剤評価においては必須と言える表面張力測定の付帯作業として簡単に測定することが可能である。
評価の最終段階では結果の裏付けとして、より高度で詳細な解析が必要となるが、多くの試料を効率よく評価し絞り込みを行う初期の段階において、ラメラ長測定や沈降性測定は実用的測定法として是非ともお勧めしたい手法である。





