ZetaProbeを用いた粉体凝集の制御
1. はじめに
液体中に分散している粒子は常に動き回っており、1秒間に何百万回も互いに衝突している。粒子間に斥力がない場合は衝突によって凝集体を形成し、粒子間に強い反発力がある場合は均一に分散し続ける。この凝集や分散状態はその分散液全体の挙動を決定し、分散液の扱いやすさに影響する。
安定した分散液を作製するには、粒子間の反発力がファンデルワールス引力に打ち勝つほど強い必要がある。つまり、凝集を制御するには反発力を制御する必要がある。反発力向上には、静電的な反発力の付与や立体障害となる構造形成などが良く用いられる。また、酸化物系・タンパク質や弱有機酸を含む系においては、pHを制御することの重要性はよく認識されているが、本来制御すべき対象はゼータ電位である。一般的に、静電的に安定した分散液において、ゼータ電位は粒子間の反発力の指標となり、ゼータ電位の絶対値が25 mV以上で安定しやすいといわれている。
2. 凝集制御におけるZetaProbeのメリット
工業プロセスを制御する理想的な方法は、直接的かつ連続的にゼータ電位を測定することである。従来の装置は光学的な方法でゼータ電位を測定していたため、かなり希薄な分散液のみを測定対象としていた。希釈には時間がかかる上、ゼータ電位を変化させてしまう可能性が高く、信頼性の高いゼータ電位値の取得が難しかった。これらの問題を解決できるのが、Colloidal Dynamics社のZetaProbeである。本装置は、粒子濃度1.0 wt%以上のほぼすべての分散液を測定対象としているため、希釈の必要がない。また、約1分で1回の測定が完了し、再現性と信頼性の高いゼータ電位値を取得することができる。
3. ZetaProbeを用いた2つの評価事例
ゼータ電位の1つの用途は、目的の分散状態に合わせたpH範囲の見極めである。図1に、pHに対するアルミナ、チタニア、シリカのゼータ電位の測定結果を示す。アルミナはpH8以下で、チタニアはpH4以下またはpH8以上で、シリカはpH4以上で安定することがわかる。したがって、ZetaProbeにより凝集または分散しやすい分散液を作製するために必要なpH範囲の決定が簡単になったといえる。pH滴定の注意点として、この曲線は電解質の濃度や種類などの他の要因にも依存するため、分散液ごとで評価する必要がある。
ゼータ電位のもう1つの用途は、分散剤の最適添加量の見極めである。分散剤の総添加量に対するゼータ電位のグラフにおいて、ゼータ電位が横ばいになった時点を、粒子表面が完全に分散剤で覆われた状態と判断する。図2に、アルミナ分散液に高分子電解質分散剤を添加した際のゼータ電位の測定結果を示す。この試料においては、約2.5 mLの添加後からゼータ電位がほぼ横ばいになっているため、最適添加量は約2.5 mLであるといえる。 非イオン物質による分散制御の場合も、粒子への吸着によりゼータ電位の絶対値が小さくなるため、ZetaProbeで最適添加量の見極めが可能である。
4. まとめ
Colloidal Dynamics社のZetaProbeはマグネティックスターラーやプロペラによる測定中の攪拌機能が標準で備わっている。また、オプションではインライン測定に対応したもの、pHや分散剤濃度などの自動滴定可能なユニットなどもある。高濃度試料を対象とするために希釈することなく、pHや分散剤の総添加量に対するゼータ電位の変化を数十分間で測定できることが本装置の大きな特徴といえる。