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 フィルムのグラフト重合とゼータ電位・表面自由エネルギー解析

1.はじめに
 EB(電子線)照射は,物質にエネルギーを与えることで分子の共有結合状態を変化させることができるため,高分子表面特性を改質したり,新しい機能を付与したりすることができる。岩崎電気㈱様が得意とするEBグラフト重合では,印刷適正,セパレータのぬれ性,イオン交換性,耐光性,抗菌性などの改善・改質などで活躍している。

 グラフト重合とは,身近なもので例えると接ぎ木のようなものである。実が成らない木に果物の枝を接ぎ木することでその枝だけに実が成る。同様に,高分子表面の共有結合を切ってラジカルを作り,その部分に官能基を有したモノマーを導入することで機能性を付与することができる。
(参考元 岩崎電気㈱様HP:https://www.iwasaki.co.jp/tech-rep/technical/166/

2.グラフト重合による親水性付与

 基材とするETFEフィルムにHEMA(2-ヒドロキシメチルメタアクリレート)を塗布し,パンチングメタルを介して電子線EBを照射した。パンチングメタルの穴あき部分のみがEB照射の効果を受けてラジカルを作り,その部分にのみHEMAがグラフト重合することで部分的に異なる特性を付与することができる。このフィルムに水を触れさせたところ,規則正しく丸い水滴が残っており,パンチングメタルの穴あき部分にのみグラフト重合が生じ,撥水表面であったETFEフィルムに親水性を付与できたことがわかる。

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3.ゼータ電位測定と表面自由エネルギー成分解析

 未処理のETFE表面とグラフト重合処理したETFE表面において,固体のゼータ電位測定および表面自由エネルギー解析を行い,測定結果を比較した。
 固体のゼータ電位の測定結果を図2,図3に示す。試料条件としてEB吸収線量を変えた場合の表面改質状態の違いを比較している。図2より,グラフト重合処理が行われたETFEのpHに対するゼータ電位の推移は,未処理のETFEと比較すると,付与された官能基によりpHに対するゼータ電位の変化量が小さくなったことが分かる。また,図3よりEB吸収線量が大きくなると等電点が徐々にpHの低い方に変化していることがわかる。

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 表面自由エネルギー解析の結果を表1,図4に示す。表1より,EB吸収線量が大きくなると,水とジヨードメタンのどちらも接触角が徐々に小さくなったことが分かる。
 表面自由エネルギーの分散成分は,25 kGyのEB照射による表面改質時に約13 mJ/m²の大きな変化を示したが,その後の50 kGyおよび100 kGyへの吸収線量の増加では,分散成分の変化はほとんど見られなかった。一方,表面自由エネルギーの極性成分は,EB吸収線量が25 kGy,50 kGy,100 kGyと増加するにつれて,ある程度の上昇が確認された。さらに,表面自由エネルギーのTotal値は,未処理のETFEと100 kGy照射後とで約34 mJ/m²の差が見られ,顕著な変化が確認された。

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4.まとめ
 本アプリケーションの目的は,表面改質の度合いの数値化である。本件では,固体のゼータ電位測定と表面自由エネルギー解析の2つの測定方法で比較したが,それぞれアプローチする視点が異なるため,数値化できる界面現象も当然異なるものである。そのため,表面を分析する上で大きな変化をもたらしている条件を見定め,変化量が小さくなる境界を見極めることで,製品の目的に応じたより効率的な処理条件の選定に活かすことができる。

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