【第6回】ショウノウ舟はなぜ動くのか?
1円玉と並んで、よく表面張力の現象として持ち出されるのが、「ショウノウ舟」です。 小さな模型舟の船尾にショウノウの塊を付けておくと、舟を水に浮かべたときに勝手に走り回る現象です。
「ショウノウ」というと防虫剤の匂いを思い出す方もいらっしゃるでしょうが、最近ではp(パラ)−ジクロロベンゼンなどにその役目を奪われてしまいましたので、入手しにくいかもしれません。
(なお、いずれも口に入れると有害ですので、食べないように。)
こショウノウの分子は、水をはじく疎水基と、水になじむ親水基を持っています。舟の船尾に取り付けられたショウノウの塊が分解して、分子が水面に移ると、疎水基を上にして単分子の膜を形成します。舟の後方ではショウノウの単分子膜ができ、舟の前方には水面があります。物質は表面張力により、その面積を少なくしようとします。この場合、水の表面張力はショウノウよりも高いため、水面の面積の方がより小さくなろうとする力が強いのです。したがって、ショウノウと水の境目は水のほうへ引き寄せられます。そして、その境目にある舟も、一緒に引っ張られてしまうため動きます。また船尾のショウノウはどんどん溶け出していきますから、ますますショウノウの表面は広げられてしまいます。
ショウノウにはじかれて動いているように見えますが、実際は水の表面張力によって引っ張られているわけです。しかしこの舟も、水面が完全にショウノウ分子で覆われてしまうと、動かなくなります。
なお、以下のような物質であれば、ショウノウでなくともこの現象を確認できることがあります。
- 水に混じらない。
- 単分子膜を形成する。
- 水と比べて非常に表面張力が低い。