【第3回】自然に学べ〜記録を塗り替えるハイテク水着
一昔前の男子競泳では、水の抵抗を減らすために体毛を剃り、小さなビキニパンツという光景が当たり前でした。しかし最近は、むしろ水着の面積が広くなり、膝の近くまで覆うため、逆に動きにくいんじゃないのか?という疑問もありました。日本が誇る金メダリスト、北島康介選手の映像を見れば一目瞭然ですね。
競泳水着の進化には大きく2つのポイントがあります。(他にもいろいろありますが)
- 体の動きを阻害しない伸縮性能
- 人間の肌より少ない水の抵抗
「水の抵抗」は前面で押しのけるものと思いがちですが、実際は前方から後方へとスムースに流れることも重要で、まさに固−液界面の問題です。
きっと競泳用の水着は、「すべすべで水をはじき易い」 「水をはじき易いものは水の抵抗が少ない」「ザラザラしていると抵抗が大きい」と思われる人も多いでしょう。実際にそう思われていた時期もありましたが、これが必ずしも正解とは言えず、 魚類などの皮膚を参考にして、一流メーカーが大学と共同研究で開発した結果が最先端の競泳水着です。
俗に「さめ肌」という言葉通り、サメの体の表面はザラザラしていますが、これも開発の上でヒントだったとか。
さて、そのハイテク水着、オリンピック選手ともなると、一人一人の体型に合わせたオーダーメイドだそうです。 1着のお値段はいかほどなのか・・・?
さて・・・
研究者によれば、イルカがあのスピードを出せるのは、体の形状や筋肉の強さだけではないのだそうです。種類にはよりますが、その泳ぐスピードは、30km/h〜50km/h程度、シャチ(サカマタ)では60km/h以上だそうです。イルカは何となくツルツルしたイメージがありますが、実際にイルカを触った人の話を聞くと「ザラザラしていた」と答えることが殆どでしょう。前の方で「さめ肌」と書きましたが、イルカも「さめ肌」なんですね。
そのサメですが、アオザメは70km/hものスピードで泳ぐそうです。魚類にはもっと速いものがおり、カジキやサワラの仲間には時速100km/hものスピードで泳ぐ種類もあるそうです。イアン・ソープ選手の200M〜400M自由型の記録スピードも、時速に換算すると7〜8km/hですから、その約10倍超です。魚類も一見表面が滑らかそうですが、鱗(ウロコ)で覆われていたり、粘々したものに覆われていたり、決して滑らかとは言えないものが多いようです。
飛行機やレーシングカーを作った人間ならば、野生動物よりも速く泳げる機械を作れるのでは?と思われるかもしれませんが、原子力潜水艦が水中では40ノット(約75km/h)程度だそうです。もっとも潜水艦はどの国でも機密事項のため、詳細なスペックはほとんど公開されていませんから、それ以上のものもあるかもしれません。ちなみに魚雷は、100km/h以上で航行できるようです。
他の種類の船にしろ、その船体の形状だけではなく、船体に塗る塗料と水との関係、「撥水性」、「親水性」、により、性能が全く変わってしまいます。たとえ僅かな差であったとしても、長距離を航海する船にしてみれば、積み重なって大きな違いです。
また、フジツボなどの付着も変わってきますので、界面科学的に評価することは大いに意味があります。